はじめに

営業利益が前の年から4割も伸びた決算なのに、株価は1週間で5%近く下がった。そんなことって起きるの?
結論から言うと、起きました。決算の中身を開けてみると、伸びた理由がゲームの売り上げそのものではなかったからです。
2026年7月31日、ソニーグループが2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の決算を発表しました。営業利益は前年同期から4割増え、通期の業績予想も上方修正。数字だけ見れば文句なしの好決算です。ところが株価は、発表後の1週間でむしろ下がりました。
- 決算は大幅増益。それでも株価は発表当日から下げ、週明けにさらに大きく下げました
- 発表前(7/30)終値3,809円から5営業日目(8/6)終値3,626円で-4.80%。同じ期間の日経平均は+6.17%
- 週明け8月3日には-5.23%の急落。ただし8月5日からは4営業日続けて上昇しています
- 8月10日まで見ると3,764円まで戻り、発表前比-1.18%とほぼ元の水準に近づいています
まずは値動きから見ていきます。
市場の声(株価編)
決算の開示は7月31日12時。東証プライムの昼休み中という珍しいタイミングでの発表でした。前場の取引はすでに終わっており、後場(12時30分〜)から反応できる形です。起点になる発表前営業日、7月30日の終値3,809円には、まだ決算は織り込まれていません。
個人的にソニー株のホルダーでもあるので、この決算発表からの値動きはいつも以上に追っていました。以下がその記録です。

| 日付 | 終値 | 前日比 | 出来高 |
|---|---|---|---|
| 7/30(木) 発表前 | 3,809円 | — | 2,508万株 |
| 7/31(金) 発表日 | 3,787円 | -22円(-0.58%) | 3,928万株 |
| 8/3(月) | 3,589円 | -198円(-5.23%) | 2,777万株 |
| 8/4(火) | 3,539円 | -50円(-1.39%) | 1,877万株 |
| 8/5(水) | 3,565円 | +26円(+0.73%) | 1,677万株 |
| 8/6(木) 5営業日目 | 3,626円 | +61円(+1.71%) | 1,753万株 |
| 8/7(金) | 3,721円 | +95円(+2.62%) | 1,636万株 |
| 8/10(月) | 3,764円 | +43円(+1.16%) | 1,691万株 |
このシリーズでは、発表前営業日の終値から5営業日後の終値までを「発表から1週間」として毎回そろえて見ています。ソニーの場合は場中発表のため、発表当日の7/31を1営業日目として数え、5営業日目は8月6日になります。
値動きは大きく3段階に分かれます。まず発表当日の7月31日はほとんど動きませんでした。前日比-0.58%で、昼休み発表の直後に反応が出たわけではありません。次に週明け8月3日、前日比-5.23%の急落です。この材料は決算発表当日(7月31日)の夜に時事通信が「TSMCとの合弁に関する追加費用100億円」と報じていたもので、週末を挟んで最初の取引日となった8月3日に意識されたとの見方があります。高値圏からの利益確定売りに加え、メモリ半導体価格の高騰によるPS5のコスト圧迫懸念や、AI・半導体関連への資金シフトを指摘する声もありました。翌8月4日も-1.39%とさらに下げ、この2日間で発表前の水準から7%近く値を落としています。
そして8月5日からの切り返し。+0.73%、+1.71%、+2.62%、+1.16%と4営業日続けて上昇し、下げたぶんの大半を取り返しました。このうち8月6日・7日は、同じ日の日経平均がそれぞれ-0.93%、-0.12%と下落・横ばいだったのに対し、ソニーは+1.71%、+2.62%と大きく上げています。この2日間、ソニーからの新しい適時開示や証券会社のレーティング変更は確認できず、はっきりした材料は見当たりません。下落が続いた分の買い戻しが入ったとの観測もできそうです。

発表当日の1日だけなら-0.58%、5営業日目の8/6までなら-4.80%、8/10まで見ると-1.18%。どこで区切るかで、同じ値動きがぜんぜん違う数字になります。
同じ時期、市場全体はどうだったのか。期間をそろえて日経平均と並べると、こうなります。
| 期間 | ソニー | 日経平均 |
|---|---|---|
| 発表当日(7/31)の1日 | -0.58% | +4.03% |
| 発表前→5営業日目(8/6) | -4.80% | +6.17% |
| 発表前→8/10 | -1.18% | +8.25% |
どの期間で見ても、ソニーは市場平均に見劣りする動きでした。日経平均が6%以上上げている同じ期間に、ソニーは5%近く下げています。
まとめると、発表をはさんだこの2週間は「発表当日はほとんど動かず、週明けに大きく下げて、そこから4営業日連続で買い戻された」という形でした。好決算がそのまま素直に買われた、という値動きではありません。
決算の中身も見ておく
株価の話が続いたので、発表の中身も見ておきます。2027年3月期第1四半期(連結)の主要数値は以下の通りです。
- 売上高:約2兆8,378億円(前年同期比+8%)
- 営業利益:約4,765億円(同+40%)
- 通期の営業利益予想を1兆6,000億円から1兆7,200億円に上方修正
ゲーム部門にあたる「ゲーム&ネットワークサービス」(G&NS)セグメントは、売上高約9,371億円で前年同期の約9,365億円からほぼ横ばい(+0.1%)。一方で営業利益は約2,020億円と前年同期の約1,480億円から+36.5%伸びています。売上がほとんど増えていないのに、利益だけ4割近く増えている計算です。
利益を押し上げたのは、為替と関税還付
この+36.5%の要因について、ソニー自身が決算説明会のスピーチ原稿で説明しています。プラス要因として挙げられているのは「米国関税の還付」(納めた関税の一部が条件を満たして戻ってきたぶん)と、「為替の好影響」(円安による押し上げ効果、金額にして約191億円)の2つ。逆にマイナス要因としては「次世代プラットフォームへの投資とリストラ費用の増加」が挙げられています。
実際、この四半期のゲーム関連の実績を見ても、伸びているとは言いにくい数字が並びます。
- PS5の累計出荷台数は6月末時点で9,530万台。ただし今四半期の出荷は160万台で、前年同期の250万台から減少
- 月間アクティブユーザーは1億2,500万(前年同月比+2%)。公式の表記は「6月として過去最高」で、通期を通じての最高ではありません
- フルゲームの販売本数は6,610万本。うちダウンロード版が82%で、前年同期の83%、前四半期の85%からはむしろ下がっています
- ユーザーの総プレイ時間は前年同期比-4%
出荷は減り、プレイ時間も減り、ダウンロード比率まで下がっている。それでも営業利益は4割近く伸びていて、その要因として会社が挙げているのが為替と関税還付でした。見出しの数字は好決算でも、中身はゲームが好調だったという話ではなかったということになります。
ディスク廃止のその後
この決算説明会の質疑応答では、以前このシリーズでも取り上げたPS5ディスク版の生産終了(2028年1月)についても記者から質問が出ました。回答したのはCFOの陶琳氏です。
陶琳氏は「最も大きい背景はコンテンツ全体のデジタル化が進んでいること」だとした上で、「もろもろのご意見とお気持ちをたくさんコミュニティから寄せられていることは理解しています」「ゲームというのは本当に多くの人々に愛されているエンターテインメントであって、それぞれの人々の思い出にも繋がるようなもの」と述べています。ゲーム情報サイトgamebiz.jpは、この質疑応答について「利益率やコスト削減にはほとんど触れなかった」と指摘しています。コスト削減が目的ではないという明言があったわけではありませんが、少なくとも会見の場でその理由が前面に出てきたわけではなかったようです。
撤回を求める署名は、前回の記事を書いた時点で31万件超でしたが、その後も増え続け、現在は363,807筆に達しています。以前の記事はこちらです。
ゲーマー目線で見ると
今回の決算で気になったのは、フルゲーム販売に占めるダウンロード版の比率が82%と、前四半期の85%から下がっていた点です。前年同期の83%と比べても下がっていて、ずっと上がり続けてきたこの比率が、僅かではあるものの、ここへ来て足踏みしています。
もうひとつ引っかかったのが、ユーザーの総プレイ時間が前年同期比-4%だったという数字です。これは自分にも当てはまります。PS5で遊ぶ時間は、ここ最近少しずつ減っています。
ただ、ゲームをやめたわけではありません。減ったぶんは、そのままスマホのゲームに移っています。据え置き機の前に座る時間が減って、手元で遊ぶ時間が増えた。その入れ替わりが起きているだけ、という感覚です。
決算に出てくる「総プレイ時間-4%」は、ゲームから離れた人の数字とは限りません。少なくとも僕の場合は、遊ぶ場所が変わっただけでした。
さきほど、自分のプレイ時間がスマホに移っていると書きました。では移った先にソニーはいるのか。気になって調べてみると、PlayStationはモバイルに参入しては退くことを繰り返していました。
- 2012年に始まったPlayStation Mobileは、2015年に終了
- 2016年設立のモバイル子会社ForwardWorksは、2021年にソニー・ミュージック傘下へ移り、2024年に解散
- 2022年には「2025年までにリリースの約半数をPC・モバイルへ」と掲げたものの(当時は約4分の1)、2024年にモバイルスタジオを閉鎖。2026年3月にもモバイル部門の人員削減が報じられています
モバイルが世界のゲーム市場の半分以上を占めるという推計もあるなかで、PlayStationはそこに深く踏み込んでいません。
ただしソニーグループ全体で見ると話が変わります。ソニー・ミュージック傘下のアニプレックスが手がける『Fate/Grand Order』は、2023年8月時点で世界累計収益70億ドルを超えています。ここが少しややこしいのですが、アニプレックスはソニー・ミュージックの傘下なので、FGOの売上はソニーの決算では「ゲーム」ではなく「音楽」の部門に計上されます。つまり、この記事でここまで見てきたゲーム部門(G&NS)の数字に、FGOの売上は1円も入っていません。

据え置き機を離れて遊んでいる僕の時間も、めぐりめぐってソニーグループのどこかには落ちているのかもしれません。ゲーム部門の決算には出てきませんが。
まとめ
そのゲーム部門は、今回の決算で「次世代プラットフォームへの投資」を増益のマイナス要因として挙げていました。PS5の四半期出荷が前年より90万台減っている一方で、その先の準備はもう始まっているということです。
気になるのは、それが単純にマシンパワーが上がるだけの世代交代なのか、それとも遊び方そのものが変わる進化になるのかです。
PS4からPS5に変わったとき、自分にとっていちばん効いたのは解像度ではなくロード時間でした。「読み込み中」を眺めている時間がほぼ消えて、死んでもすぐやり直せる。それだけでゲームの手触りが変わりました。DualSenseの引き金の重さも、スペック表からは想像できなかった部分です。数字より、遊んでいる最中の感触が変わった世代でした。
振り返ると、世代が変わるたびにスペック表に出てこないところが変わってきました。PS3ではHD画質とBlu-ray、PS4ではシェアボタンでプレイ動画をそのまま配れるようになり、PS5ではロード時間と手触り。どれも発表前には想像していなかった変化でした。次の世代でも、きっとまた予想していなかったところが変わる。その一手が見えてくるのを楽しみに待っています。
よくある質問
- Q決算が良いのに株価が下がることはあるの?
- A
あります。今回のソニーがまさにその例で、営業利益は前年同期から+40%、通期予想も上方修正という好決算でしたが、株価は発表前の終値3,809円から5営業日後の終値3,626円まで-4.80%下がりました。同じ期間、日経平均は+6.17%上げています。決算の数字と株価の動きは、必ずしも同じ方向を向くとは限りません。
- Q営業利益が伸びたのはゲームが売れたから?
- A
そうとは言えません。ゲーム部門(G&NS)の売上高は前年同期からほぼ横ばい(+0.1%)でした。営業利益が+36.5%伸びた理由として会社自身が挙げているのは、米国関税の還付と為替の好影響です。同じ四半期にPS5の出荷台数は前年より90万台減り、ユーザーの総プレイ時間も-4%でした。
- Q今回の決算で配当は増えたの?
- A
今回の1Q決算では据え置きです。年間配当35円(前期比+10円)は、2026年5月8日の通期決算ですでに決まっていた数字で、今回新たに増配が発表されたわけではありません。
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